2012年4月25日 鴎友学園中学 塾対象入試報告会報告
青夢舎
1.教育理念・特色
思春期の男子と女子は身体的にも精神的にも発達のペースが異なる。特に女子の場合は自己に対して必要以上に批判的になりがちで自己評価を低くしてしまいがち。そんな女子に対して、自分自身を認めて自尊感情を持てるよう、背中をそっと押してあげること、励ましてあげることはとても重要なことと考えている。コミュニケーションを女子は求めるという意味で、また、いわゆる「女性らしさ」にとらわれずに自分の関心を深め、才能を伸ばしていけるという意味で、「女子校で学ぶ」ということの意義は大きい。
鴎友学園の教育理念はキリスト教精神に基づく「慈愛(あい)」と「誠実(まこと)」と「創造」の3本柱。
「慈愛」とは他者を尊重し、お互いを認め合い社会の中でともに生きることであり、「誠実」とはそのような生を本気で生きること、本気で学ぶことによって、内なる可能性を高めることである。私たちは人のために生きることで自分を生きているのであり、その結果として自己肯定感を高め自らを育てていけると考えている。
そして、そのようにして育てられた自己、自分の価値観を表現していく。より積極的な意味での自由として「創造」が行われる。創造が行われるためには自由と肯定が存在していなければならない。教師たちの役割は子どもたちの「創造」を引き出すことにあると考えている。今まで受け入れてきた親なり学校なりの価値観を自力で破り、自分なりの価値観を多様な社会の中で表現する術を身につける時期が中高一貫教育の6年間と鴎友学園では位置づけている。
したがって、鴎友学園ではコミュニケーションを重視している。外から取り入れた情報を自分の中で整理して、どのように発信していくか。そんな力を養っていけるよう各授業では工夫している。また主要教科だけに特化するのではなく、園芸やリトミックの授業を通じて感性を養うことも大切なものと考えている。
2.入試状況および進路状況英語教育について
2012年度入試では1次試験および2次試験合格者の入学率が低下。1次の募集定員を増やし、鴎友を第一志望と考えている受験生により門戸を広げる入試形態にしたが、本命校というより併願校として位置づけられているご家庭が多いのかもしれない。
入学辞退者に進学先について尋ねたところ、女子学院、フェリス女学院がそれぞれ7名、豊島岡女子6名
神奈川県立相模原中等教育学校4名、筑波大附属3名などとなっていた。東日本大震災の影響で横浜・川崎市内や東京都心部、東京23区東部地区からの出願者が減っていたが、辞退者進学先の内訳に県立中学が含まれていたのは、同じようにより手近な進学先を選択した結果なのかもしれない。
今後の方向性として2次募集と3次募集は統合していく予定だが、2013年度は前年度と同様に1次140名(2/1)、2次60名(2/2)、3次20名(2/4)の募集定員を維持する。入学手続き締切は2月8日正午までで、手続き期間としてはやや短い期間だが、3月1日までに連絡をすれば入学辞退(と入学金の返金)は可能。
現役生の大学への進学状況は国公立大学進学者が25.8%、早慶上智理科大ICUで27.5%、GMARCH15%等となっている。浪人生は全体の1割ほど。今春の現役生の特徴として自然科学系へ進学した生徒が半数近いということが挙げられる。例年は自然科学、社会科学、人文科学でほぼ三分していたが、今春の卒業生たちは、東日本大震災の経験を経て人の役に立ちたいという気持ちがより強かったのかもしれない。
3.各教科について
@国語 鴎友学園は受信力と発信力のある生徒、つまり相手の情報を受け取り整理し、自分で考えてその内容を表現できる生徒を育てたい。文字に表すこと、文章化することは考えていることを明確にするという意味で、生きること、学問の基礎と考えている。
したがって国語に限らず、どの授業やHRでも書く機会は意識的に設定しており、そのようなことができる生徒さんに入学していただきたい
2012年度入試では場合、全問記述式の物語文と説明文を1つずつ、および漢字の書き取り問題を各回で出題した。で7〜8題の記述問題を出題し、計500字前後の解答を受験生たちは書くことになる。
設問を設定する時には、必ず解答作成のヒントとなるような条件を、傍線部だけでなく問題文にも書いているので、その条件に合うように解答を作成できれば完全な解答となる。採点は解答中に、設問の条件に合う要素を見つけて加点していく方式で行っている
記述問題の学習方法としては本をたくさん読みながら、登場人物の気持ちのゆれや心情変化の原因を探すこと、また登場人物間の気持ちの対比を意識しながら詠むことが挙げられる
また他校の入試問題に見られるような記号選択式の問題でも、先に自分の解答を記述答案として作成した上で選択肢を選ぶという方法で、記述問題の対策を行えると思う
A算数 全問題で途中式を書かせる記述式だが、受験生たちは例えば面積図を用いたりしながらよく答案をまとめてくれている。
割合と比の絡む問題で合格者、不合格者の差がつきやすい。
平面図形の問題はよく見慣れたカタチの変形であることにどう気がつくかがポイント
問題文に書かれていること、聞かれていることを読み解く力、分析する力も例年求められている
B社会 問題に書かれている条件をよく読み、何を答えるべきか考えないと、記述する問題で得点をとりきれない(部分点にとどまってしまう)
今までにない聞かれ方で出題される問題もあるが、問題に書かれている情報と自分の持っている知識とをうまく組み合わせて欲しい
また教科の枠を越えて様々な知識のネットワークを問うような出題も珍しくない
鴎友の社会科は実物や体験を大切にして、そこからなぜを育てて、自分の言葉でまとめる教科
ニュースには日ごろからなじんでいて欲しい
C理科 基礎的な事柄でも切り口を代えて出題されると失点する子が多い
理科の実験に関する問題も差がつく。操作手順などを学校での理科の実験経験を思い出しながら確認する必要がある。
計算問題は簡単な比例関係を利用するものでも、数字が複雑になると合格者と不合格者との間で得点率に差がついている
基本を大切に、ということは丸暗記をすることではない。基本的な事柄だからこそ、なぜそうなるのかを考えることが大切。
4.感想
子ども達の記述力を磨き上げながら、日々のコミュニケーションを通じて自己肯定感を高めていく。鴎友学園が毎年ぶれることなく発信し続けているメッセージです。また入試問題も、そんな学校からのメッセージが全教科で忠実に反映されたつくりになっています。確か4年前ないしは5年前の入試報告会だったかと思いますが、当時、学校の状況を「志願者、応募者の伸びに比べると、伸びてきた合格実績がここ1,2年は今一歩横ばい気味」と入試担当の先生が率直に評していらっしゃったのを覚えています。しかし、進学に特化するわけではないと説明しながらも、その現役合格実績は5年前当時と比べても国公立でおよそ1.5倍、早慶上智理科大ICUにいたっては2倍近くに伸びています。
現状を常に真摯に受け止めながら先生方が子どもたちと向き合い続けている、その結果として子ども達も背中を押され意欲を高めているそんな学校の姿が思い浮かんだ入試報告会でした。