2007年4月29日 女子校アンサンブル説明会報告 青夢舎
学習院大学西5号館で開催された、私立中学による女子校アンサンブルは今年で5回目、参加校は五十音順に、跡見、学習院女子、恵泉、香蘭、実践女子、東京女学館、東洋英和、三輪田、山脇の各校。
プログラム内容は、山脇学園OGでシナリオライターの武田樹里さんによる基調講演の後、各校のミニ説明会(各15分)。それと同時並行で、個別相談会および学習相談会が開かれていました。この報告では、各校の学校紹介の中から、特に目についた内容についてご紹介いたします。
(※ なお、各校の末尾にある斜体部分は報告者の主観的なコメント・補足です。)
1.跡見学園
新年度がスタートして間もなく1ヶ月。例年、大学へ進学して行った卒業生たちが母校へ報告に来てくれる時期ですが、どの卒業生たちも「自分の選んだ大学は間違っていなかった!非常に充実した日々を送れている」と報告してくれます。そのような卒業生を毎年送り出せていると自負しております。
跡見学園の中学校3年間のテーマは「自律」。すなわち自分で自分を律する、コントロールできるようになることです。
2月・3月に新入学生の出校日を設けておりますが、そこでどの子も驚くのは、279人(2007年度)という新入生が一堂に会することで実感するその人数の多さです。小学校時代、少人数の学級・学年での生活に慣れた子どもたちが、この大人数の中での自分の役割、場所を見つけ出すのは時間のかかることです。
跡見学園は宿泊研修や移動教室など、学校外での学習プログラムが豊富であることが特色のひとつですが、こうした集団での学校外での学習、そしてその事前準備を通じてこそ、基本的な社会性・コミュニケーション能力が身についてくると考えています
「自律」というテーマは教科学習面おいても大切です。学校以外に塾へ通う時間があるのなら、その分の時間をご自宅の自分の机の上で復習する時間に充ててほしい。自分の頭で考え、理解し、復習していく習慣をつけさせるための提出物(こういう言い方をすると、受験生のみなさんには「ええーっ」と嫌な顔をされてしまうのですが)などは、英語・数学・国語の主要3科についてはしっかりと整えてあります。
このようにして中学3年間で自分を律することができるようになったら、高校3年間では何をするのか。今度は「自立」がテーマになります。
自分は人としてどのような生き方をしたいのか、そのためには大学で学んだことをどのように社会に活かして生きたいのか。という問題意識から逆算して大学選びをしてもらいたい。その時には、興味のある学問分野に応じて学部を選ぶというだけでなく、その学問のどの分野を学びたいのか。例えば、国際社会について学びたい、その中でも特に国際法について学びたい、だったらその分野の優秀な先生は○○大学にいる、、といった具合に自らの進路を選んでほしいと思うのです。社会に目を向け、自分の力で立ち上がること、これが高校3年間での課題ということになります。
合同説明会で教頭先生のお話を伺うのは、去年から数えて3回目ですが、毎回非常に筋の通った話され方をされています。今回も15分間という時間を余すでもなく不足するでもなく、ぴったり話し終えられたことに、周囲のお母様が「時間通りだわ!」と驚かれていました。専門分野まで意識した上での大学選び、というお話も、全くその通りだと強く共感しました。
2.学習院女子
学習院女子の前身は旧制の華族女学校、ということで非常に敷居が高いのではないかとか、贅沢なのではないかといったイメージをもたれがちですが、内実は非常に質素な学校だと思います。生徒のみなさんは学校が大好きですし、非常に明るく伸び伸びとした学校生活を送っている。それでいて、本校の卒業生たちは社会人になってから、その能力もさることながら、社会人としての言葉遣いや礼儀作法などが自然と身についていることを非常に高く評価されています。
以前、数代前の校長が「学校とは牧場の柵のようなものだ」ということを申しておりましたが、今でもその通りだと思います。外部からは安全に守られた柵の中で、生徒たちは伸び伸びと自由に過ごせている。これからもそのような学校でありたいと考えています。
昨年のこの説明会でのテーマは「自律」でした。生徒たち自らが「ふさわしくない場所」には立ち入らない、「ふさわしくない場所」というのはどのような場所なのか、ということも自分たちで考えて話し合う。このリベラルな雰囲気というのは、学習院という学校全体に息づいているように大学OBとしては感じています。
2008年、東京メトロ副都心線(
3.恵泉女学園
何を一番大切な価値として、子育てを、教育をしていくのか。恵泉学園では「旧」教育基本法に書かれている「個の尊厳を重んじる」ということを、これからも変わらずに守っていきたいと考えています。
私たちの先人が太平洋戦争から学んだ教訓は、「ひとり」という存在の「命」以上に大切なものはないということでした。「国」よりも大切な「ひとりの命」を守るために「国家」というものはある。そのために「国民主権」ということと「非戦」という大切な原則が日本国憲法には明記されている。このことを大切にしていきたいと考えています。
「一人ひとりを大事にする」「私は私であっていい」「みんな違った存在でいていい」ということを中高6年間で経験させてあげられる教育をこれからも行っていきたい。
「私は私であっていい」ということに気がついたとき、その生徒の内在的な力は100%発揮されることになる。そのために恵泉が大事に守っていることが2つあります。1つは「生徒を信じる」ということ。これは約束を信じるとか、そういうことではなく、子どもたちの中に内在する「未開の泉」の存在、つまり「本当の自分の願いをつかみとる力」を信じるということです。
自分自身で自分の心を掘り続ける、そうすると汚いものも負のものもいっぱい出てくる。それでも自分を見つめて見つめて、自分の心の奥底を掘り続けていくと、そこに眠っている清らかな泉に出会える。そうやって、自分の本当にやりたいこと、なりたいものが見つかると、その生徒はどんなに苦しくたっていくらでも自分で勉強するようになります。そのための試行錯誤を見守ってあげられる教育をしたい。
もう1つは「平和への祈り」ということです。恵泉の創立者が、戦前様々な国際会議に出席された時に、会議の参加者はみな平和を願っていたけれど、創立者は「これは必ずまた戦争がやってくる」と直感したそうです。なぜか。その平和のための会議の出席者が男性ばかりだったからです。真に平和を達成しようと思ったら、女性が社会に参加しなければその願いは実現できない。女性にしか果たせない平和への役割を果たすために、生涯をかけて、平和への妨げとなるようなものを取り除く女性を送り出していきたい、それが恵泉の願いなのです。
なかなか、個人的には伝わりにくいお話だとは思いますが、ひとりの人間としての生き方を考えるうえで、思春期にとことんまで自分を見つめ続ける、というのはとても大事なテーマだと思います。そのための一つの重要な材料が、恵泉の特色といって過言でもない「園芸」の授業ではないかと思います。記述力や途中の思考過程を問うてくる国語や算数の入試問題も、一人ひとりの試行錯誤を見守ろうという学校の姿勢が現れたものではないかと思います。
4.香蘭女学校
12歳から18歳という非常に多感な時期を過ごす場所であるために、私立学校が提供できる環境というものは非常に重要だと考えています。特に女の子にとっては、体型が大きく変わる、大人の女性へとなっていく時期です。そのような変化に対しては、大人になることへの喜びもあるけれど、不安もとても大きい。そのような喜びも不安もそっと受け止め見守ってあげる、そういう教育を香蘭は120年間続けてきました。
思春期というのは本当の自分に気付くための時期、将来の夢をふくらませそこに向かっていくための時期であります。そのためには学校内に豊かな自然環境も必要ですし、人と人との出会いの環境も必要です。香蘭では次の場所へ向かって巣立つ準備をしている高校3年生が、新中学1年生のお世話をする「ビッグ・シスター」制度を設けております。新入生にとっては「こんな素敵な上級生になっていきたい」という、いいお手本に出会えるわけです。
豊かな自然に囲まれることで、「命」とは何かということも自然と考え身につくようになってくるし、人としての出会いの環境も用意されている。思春期を迎える女の子が過ごす環境としては申し分ない学校だと思います。
今年の説明会からは、去年の説明会で挙げられていた日本女性の「奥ゆかしさ」、「やさしさ」、「従順さ」、というキーワードが消えていました。もしかしたら少し変革期に入ったのでしょうか。そのせいか、学校側と生徒さんたちとの関わり方の方向性が少し見えにくくなってしまったような印象があります。でも、中学新入生が高校卒業を控えた上級生にあこがれる、この環境こそが中高一貫校の醍醐味だと思いますし、「ビッグ・シスター」というのはその利点を最大限活かした良い制度だと思います。
5.実践女子
本校の教師は、生徒さんたちに対して一人ひとりが父として母として接してきています。何か指導上の行き違いがあってご家庭と話し合いをすることになったとしても、こちらの真意を御説明することで必ず御理解をいただけている。これは創設以来ずっと変わっていないと思います。実際に校長である私も本校のOGですが、公立学校の教員を経て4年前に実践に戻ってきた時に、先生方の間に依然としてそういった姿勢が息づいている。卒業生を送り出した後も、いつでも彼女らが戻ってこれる「家」のような存在として40年間、ずっと実践は続いてきました。
本校では早い時期から「キャリア教育」ということを進めてきて、女性の社会進出を進めてきたわけですが、近年の日本社会が変化していく中で、ただ単に女性の「社会進出」を進めるというだけでなく、社会の組織の中での「意思決定への参加」が可能となるような能力、専門性というものを備えた女性を育成できるように、そのためにはより高い学力を育成する必要があるということで、さらにカリキュラムを変革していこうと考えています。
実際、キャリア教育を早期に進めることで、自己教育力とでもいうべき、自分で調べて学んでいく「能動的」な学力が備わってきている。また「キャリア」への意識を持つことで、日常の勉強の取り組み方も変わってきている、その点にはかなり手ごたえを感じています。近隣の大学と提携して、大学の授業に参加する生徒も増えてきていますが、彼女らは正規の講座であるにもかかわらず全員単位認定にまでこぎつけています。中学校でも放課後に始めた特別講座に、多くの生徒が自主的に参加するといってくれています。
今後は、今年はから中学部・高校部に導入した新課程に加えて、英語の選抜コースの設置や、理数系、文科系に特化したコースでの生徒募集なども考えております。
改革の手綱は緩めない、、という感じでしょうか。様々な施策の結果、今年度入試も受験生の人気は集中しましたが、その改革が出口での結果となってくるのはまだまだ時間のかかることです。それまでの間、前向きに試行錯誤する姿勢をこのまま続けてほしいと思います。
6.東京女学館
本校では「品性」のある女性を育成したいと考えています。その言葉に込められた意味は、「教養」、「思いやり」、「立ち居振る舞い」を兼ね備えた女性ということです。新入生のガイダンスで、このお話をして生徒さんたちに感想文を書いてもらったところ、多くの生徒さんがこの言葉を「美しい」という言葉で言いかえてくれました。中学1・2年で「基礎基本固め」をし、中3・高1で「将来のモデル探し」、高2・3年で「自己実現」へとまい進しながら、6年間を過ごしていってほしいと思います。
今年も、私立の伝統校としての余裕を感じさせるお話でした。創設に関わった明治の偉人たち、伊藤博文、渋沢栄一、その後の沿革と発展、、歴史の重みといったところでしょうか。
7.東洋英和学院
本校の最寄り駅は六本木駅もしくは麻布十番駅ですが、中学生はほとんど麻布十番駅から通っているようです。平均通学時間は69.2分で、中学2年生にアンケートをとったところ、居住域は東京23区内が6割、都下・千葉・埼玉・神奈川からがそれぞれ1割ずつといった感じです。早朝の礼拝が日課となっておりますので、朝の予鈴が鳴るのが8時と、少々早いのですが、その分2限と3限の間の15分休みには軽食を摂ってもよいことになっています。授業は週5日制、クラブ活動は必修です。教育の特色としては、英語教育、音楽教育、野外教育の3点が挙げられると思います。
本校では3つの出会いがあると思います。一つは「学問との出会い」、もう一つは「人との出会い」、そして最後は「神様との出会い」です。卒業後、社会の中で女性が生きていくと、色いろと辛いこと、どうしようもない困難なことに出会うことがあります。でも、そのような時にどうしたらよいのか、それを本校の卒業生たちは皆さん知っています。その方策を見出せる種、、のようなものを見出せる学校として本校はあると考えています。
このようにキリスト教を土台にした学校ですので、本校の生徒たちはお互いを認め合える生徒たちだと思います。まず自分のことを大切にできる、だから相手のことも大切にできる、そんな生徒たちです。
今年は、キリスト教系私学としての特色を前面に押し出せた説明会だったのではないかと思います。英語教育や音楽教育の内容については、去年の説明会の報告書でも触れていますので、そちらも参照していただければと思います。
8.三輪田学園
本校の入学試験は筆記試験に加えて、保護者同伴の面接を課しております。面接はあくまでも参考程度に行うものですが、生徒さんへの教育は学校とご家庭との両側から支えなければならないと考えておりまして、そのためには受験される段階から、学校とご家庭とが顔合わせをしておく必要があるという趣旨のものです。
本校では「深い知性」と「豊かな心」の育成をめざしています。これは、2つが別個に行われる「and」の関係という意味ではなく、「深い知性」によって「豊かな心」が養われる、「豊かな心」によって「深い知性」が養われる、お互いがお互いを養うんだという「each other」の関係だと考えています。
クラブ活動は大いにやっていただきたい。クラブ活動を行うことで、自分の専門性を深めることもできるし、同時に、社会性(年齢の異なる人たちと共同作業を行う能力)を育てることもできるからです。
また本校の特色のひとつとして中1国語や中3公民で行われる「読書」の時間が挙げられます。読書は人間形成を行ううえで非常に重要なものと考えています。この「読書」の時間と、各学年で行われる「道徳」(高校では「ロング・ホーム・ルーム」の時間にということになりますが)の時間を通じて、自分の生き方だとか社会での役割についての思索を深めていく。これが本校の考える「進路指導」です。そしてこのような進路指導に基づいて、学力面からの「進学指導」を進めています。
三輪田学園の「読書」「道徳」について詳しくは、2005年度の学校説明会報告書を参照してください。綿々と受け継がれてきた人間教育のカリキュラムの厚みに、「学力」的な下支えをどのように強化していくのか。この点が今後の課題なのではないかと個人的には思いますが、校舎の新築・改築工事が完成し教室数的なゆとりができ次第、選択授業や習熟度別の学習などへの対応も、よりきめ細かくなるのではないかと思います。
9.山脇学園
本校の建学の理念は「いつの時代にも憲政に参加できる教養の高い女性を育成すること」にあります。そのためには、勉強の面ではかなり厳しく感じられる部分もあるかとは思いますが、甘やかしてはいけない、やはり学校とは勉強するための場所だと考えています。もちろん、教科指導に偏るわけではなく、生徒指導・教科指導ともに学校教育の両輪だと考えておりますし、その意味でもクラブ活動は必修としています。部活動で様々な出会いを見つけてもらいたいですし、そうやって学んだ6年間のなかで、自分のやりたい事を見つけて入った大学、自分のやりたいことの見つけられる大学であれば、その子にとっての一流大学なのだと思います。
中学1年生にはお琴の時間も設けてありますし、小笠原流の礼法なども学べる。そういった点も本校の特色なのではないかと考えています。
本校を受験したいと思う生徒さんには、何事にも前向きに挑戦してもらいたいと思います。それは学ぶことについても同じで積極的に楽しく学ぶことができる、そんな生徒さんにぜひ入学してもらいたいと考えています。
昨年に比べると、「こんな受験生に来てほしい」というメッセージは明確に伝わったと思います。カリキュラム面その他の内容など、今年は説明会などでもう少し詳しく調べてみたいと思います。
全体を振り返って
今年は全体的に「キャリア教育」「大学で何を学ぶのか」といった出口論から入口にさかのぼって話をされる学校が多かったように思います。会場の爆笑を誘うようなトークというよりは、堅実に学校紹介をされる先生が多かったです。その分、各学校間の特色の違いなどは見えずらくなった可能性はありますが、「いい大学」に入りさえすれば良い的なブランド志向の時代は終わったのだ、という意識をご家庭に持っていただくという意味ではよかったのではないか、そう個人的には思います。
もちろん、なかには学校の沿革や建学時のエピソードなどに多くの時間を割いて、伝統校としてのそれなりの余裕・風格を漂わせるような学校もありましたが、敢えて受験生向けのセールストークをしなくても親の代、祖父母の代のOGたちから綿々と受け継がれてきた評価というものを自負している、、ということの表れなのかなと思いました。