2006年5月15日 恵泉女学園塾対象説明会報告 青夢舎
1.恵泉女学園の教育の特色について(安積校長先生より)
いま、大人たちのあいだで日本の将来への不安が広まっているために、その不安を何とか軽くしようと「すぐに目に見える成果を求めてしまう」教育が、大変横行しています。子どもたちというのは、非常に敏感な存在ですから、そういった大人たちの不安や恐れを嗅ぎ取り、言われたことを一所懸命にこなそうとする、そんな素直すぎる、過剰順応しすぎた「良い子」たちが大変増えています。本来なら内発性が目覚めるはずの思春期を、園子たちが依然として「良い子」のまま過ごしていってしまうとどうなるか。結果として、ニートと言われる若者たちを産み出すことになってしまいます。
恵泉では、このような「良い子」たち、自分が何をしたいのかが分からない子どもたちの内発性を開花させる教育を目指して、日々試行錯誤を繰り返しています。それは、園芸や自然観察・芸術鑑賞などを通じて「ほんもの」に触れる機会を設けることであったり、常に自問する機会を提供することであったり、「自分の言葉」で書く機会の提供であったりと、様々なアプローチで用意されています。ただ、子どもたちの中にある「未開の泉」は、結局子どもたち自身で掘り当てるしかない。その点では、様々に自問自答の機会を用意しながら、恵泉は徹底的に子どもたちのことを信じて「待とう」、「待つこと」によってしか育たないものがあると考えています。
従いまして、恵泉では高等部からのいわゆる「文系・理系」のコース編成は行っておりません。それは、子どもたちに「自分の本当の願い」に立った進路開拓をして欲しいという思いの表れでもあります。文系・理系・芸術系すべてに対応できる「選択制」のカリキュラムをベースにした、「6年一貫進路指導プログラム」を実施した結果、2005年度も医歯薬理工系から文系・芸術系にいたる幅広い進路へと卒業生たちを送り出すことができました。
最近、ある卒業生が「恵泉は私が私であることを許してくれた」と話してくれました。恵泉は今までも「一人」の価値に目覚めた(「個」として独立した)女性を世に送り出してきましたし、これからそうあり続けたいと考えています。
2.各教科から
@数学
途中式を書かせる答案作りを徹底して指導。
カリキュラムの特色・・・中1 連立方程式、一次関数の式とグラフ
中2 不等式、相似
中3 円、高度な二次式、二次関数の式とグラフ
本校を受験する生徒さんは、必ず解答用紙に「途中式から書く」ことをして欲しい。
A国語
読ませて、聞かせて、書かせる授業を徹底。とにかく「書く」指導。
本校は、学校行事で何かと作文を書く機会が多いので、自然と子どもたちの書く力は身に付いていく。
特にテーマを設けない「自由記述」の指導
⇒条件を指定しながら、子どもたちに少しずつ推敲を重ねさせる。
最終的に、下書き段階との清書との違いに子どもたちは感動。このプロセスの繰り返し。
入試問題の設問は、前問の解答が次問へのヒントとなるよう必ず問題設定している。
時間に追われてあせったためか、主語のない答案が目立つ。主語は必ず明記すること。
B理科
様々な現象を自分の中に取り入れ、どう「論理的」に説明していくか、を考えさせる。
⇒突き詰めた先に、「自然科学を超えたもの」に気付いて欲しい。
中学入試では、身近にある現象にどれだけ「なぜ」と疑問を感じられるかが鍵。
C社会
中学入試では、統計資料を読み取り、そこから自分でその場で考え、計算していく力を求めている。
⇒入試問題を通じ、様々な社会問題に興味を持って欲しい。
3.校内見学および感想
校舎内の中央に図書館を配置し、非常に落ち着いた雰囲気の校内。各階には生徒さんたちの調べ学習用のパソコンがオープン・スペースに置かれており、IDを取得すると自由に使用可能とのことでした。図書館も非常にゆったりとしていて、熱心に調べ物に没頭する生徒さんの姿も見られました。
恵泉の独自教科である「園芸」用の畑では、一年を通じて複数の草花・穀物などが生徒さんたちによって栽培されており、授業のなかで、生徒さんそれぞれに自分の花壇を設計するというプログラムも行われています。屋上にも、アケビ、ビワなどの食草も含めて様々な草木が植えられており、お昼休みなどに生徒さんが食べていることもあるとのことです。
全体として、可能な限り多くの植物に囲まれた空間は、学校行事として行われる学年単位の自然体験プログラム、勇姿参加の自然体験プログラムとあわせ、確かに恵泉の掲げる「ほんものの命」に触れる機会を、生徒さんたちに提供している、そんな風に感じました。
学校行事についても、各学年ごとに2泊3日をベースにした宿泊研修やスピーチコンテスト、礼拝時の生徒さんによる感話など、じっくりと自分自身と向き合う機会が設けられているように感じます。進路指導の面でも、年々浪人生の比率が減少しており、先生方の試行錯誤が成果となって表れているものと思います。そういった意味で、恵泉は自分たちの校風・理念に忠実に試行錯誤を繰り返しながら、学校をつくり上げてきたと言えるのではないでしょうか。
「戦争は婦人が世界情勢に興味を持つまで決してやまないであろう」とは、恵泉の創立者である河合道先生の言葉ですが、「本校が70年来変わらずに掲げてきたものの大切さが、ますます少数派となっていくことに危機感を覚えている」、そう話される安積先生の姿が大変印象的でした。